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月刊ガンダムエース2014年7月号
特別付録「機動戦士ガンダムUC メモリアルブックⅡ」
「機動戦士ガンダムUC」完結
ストーリー・福井晴敏インタビュー 要約版
☆秘話1 ラスボスにネオ・ジオングを用意した意図
――映像ならではのプラスアルファの要素も増えていますね。
福井:わかりやすいのは、ラスボスにネオ・ジオングという存在を用意していることでしょうね。最期に新しいラスボスのメカを出すというのは、3、4年前からずっと言っていて、出すならジオングの名前を付けたいという話で進めていたんです。
――小説からは大きな変更点となりましたが、その意図は?
福井:小説でのシナンジュとの戦いは、バナージ&リディのガンダム連合軍対フロンタルみたいな形でしょう? しかもシナンジュはボロボロの状態です。ただ、小説では「機動戦士ガンダム」のドズルの散り際みたいに、シナンジュが巨大な亡霊のように見えるということで、ガンダム2機と拮抗できるようバランスを取っていました。とは言え、そのまま映像にしたとき、結局はドズル以上のことはできません。それならシナンジュから現れた亡霊の大きさを、そのまま具現化したようなMSにしようと。ただ、あんなに大きくなるとは予想外でしたけどね。
――最初はどのようなデザインだったんですか?
福井:シナンジュが大きなスカートを履いて、スーツを着ているようなイメージでしたね。ちょうど昔のガンダムとジオングの対比ぐらいで収まるから、それぐらいならいいかなと。ところが、その一稿から半年ほど経過したら、こんなに大きくなっていた(笑)。カトキハジメさん的には、ノイエ・ジールやα・アジールといったジオンの系譜を考えたとき、これぐらいの大きさは必要だろうと。古橋一浩さん的にも「絶対的な存在がいい」ということだったので、劇中でもとんでもない描かれ方になっていますね(笑)。古橋さんとしては、仏像のように後光が差しているものにしたいというのが当初からのプランだったので、まさにネオ・ジオングが輪を背負っているような描写になっていたじゃないですか? ただでさえ巨大なのに、もっと巨大になってしまいましたね(笑)。
☆秘話2 最期にシャア、アムロ、ララァが現れたのは救いなのか?
――最期にシャアとララァが現れたのは、救いのように感じられました。
福井:あれは救いじゃないんですよ。最期にシャアがやってきたのは、落とし物を回収しにきたって気分でしょう。フロンタルはシャアの形に似せて作られた存在ではあるんですけど、空っぽのはずの魂に何かが宿ってしまった。それはこの人の自我かもしれないし、もしかするとシャアの怨念だったのかもしれない。「逆襲のシャア」のラストシーンで、シャアの魂魄(こんぱく)が散ったとしたら、納得して死んでいった部分と、納得できずにそのまま滞留した怨念のような部分が残っていても不思議じゃないでしょう? で、バナージに鎮められた怨念、自分の一部を回収したところで、アムロに「もういいのか」と聞かれて、シャアもようやく成仏できた、と。小説はまだ遠慮していた部分があったんだけど、これだけの映像プロジェクトになってしまったし、せっかく池田秀一さんが演じてくださるということもあるし、これぐらいやるべきだろうと。
☆秘話3 「ビギニング」を流したのは古橋一浩監督のアイデア
――「逆襲のシャア」や「ガンダム」で描かれた時間の流れを辿って、宇宙世紀開幕へ至る流れは圧巻です。
福井:宇宙世紀の映像を振り返って、そこで「ビギニング」を流したい……というのは古橋一浩さんのアイデアですね。ただでさえカロリーの高い作品なのに、「こんなに大変なことやるの?」って思いましたよ。ただこれで最期だから、もうみんな思い残しがないように全部やろうって。実際に映像で観たとき、それは正解だったなと思いました。
☆秘話4 クライマックスでユニコーンガンダムが変化し、バナージが子供に還った意味
――クライマックスの変化したユニコーンガンダム、あれのビジュアルもニュータイプというテーマの説得力を増している印象を受けます。
福井:仮に真ユニコーンガンダムとしましょうか。あれをどんな形にするかは最期まで紆余曲折がありました。リディは劇中で「完成されたニュータイプ」と言ってますけど、あれでニュータイプを規定したつもりはありません。ニュータイプはあくまで可能性ですから、何通りの形があってもいい。ここで新しいデザインを起こして、それがニュータイプの完成形と規定されてしまうのは、ちょっと本意ではないなと。そこでユニコーンガンダム全体がうっすら透明になっている案も出ましたけど、さすがにそれはNGでした。最終的にはカトキさんを交えて、現在の形に落ち着きました。
――確かにビジュアル化すると、答えを提示していなかったとしても、規定されたような印象を受けてしまいますね。
福井:あの姿になることが目的になってしまうのは本意ではないんです。現状でニュータイプの境地にたどり着くためには、霊的な存在にならないといけないわけですけど、この段階で肉体を持ってその領域にたどり着くためには、メカニズムの力を借りることが必要なんでしょう。ユニコーンガンダムは、死者も含めた精神の集積体と言えるサイコフレームでできていて、きっとその中にはカーディアスの意思も入っている。そんな金属で人の形を作ったということは、無意識に神様を作ってしまったってことなのかもしれない。バナージはそういう恐ろしい器に入れられたことで、最期にカーディアスに導かれてニュータイプの領域にまでたどり着けたわけですけど、それが彼の本意かと言えば、きっとそうではない。彼はあくまでオードリーを助けたいという、身近な思い以外は何にも持ち合わせていない子だったわけだから。
――バナージが子供だったのは、自らの意思というよりは父に導かれたというイメージなんですね。
福井:カーディアスが「それでいいのか?」って、指さした先にミネバがいますよね。そこでバナージは気付くわけです。ニュータイプは人間の目標として持ち続けて、いつかミネバとやってくればいいということに。ニュータイプという可能性は絶えず保持しつつも、マシンの力で救いを求めるかのように一足飛びにそっちの世界に行くのではなく、自分の足で来ようと。それは数年後、数十年後という単位ではなく、いずれ彼の子々孫々がそこに行ければいいいいという気持ちだったのかもしれません。
――その領域にたどり着くことを、拒絶したわけではないんですね。
福井:拒絶ではないんですよ。みんな一緒に、ミネバと一緒に行かなきゃ意味がないっていうそれだけの気持ちで戻ってきたということです。
☆秘話5 最終話で実現したサイアムとフロンタルの直接対話
――episode 7の構成は、原作の膨大な情報量を90分に収める一方で、随所に原作にはない要素が盛り込まれた。そのひとつがサイアムとフロンタルの直接対話ではないだろうか。物語の焦点となる「ラプラスの箱」の重要性がクローズアップされるだけではなく、永井一郎と池田秀一という、宇宙世紀の守り人同士の対話は、ファンにとってもサプライズであった。
福井:サイアムとフロンタルは、当初通信で会話する予定だったんです。直接会わせようというのは、古橋さんのアイデアですね。ただメガラニカは鉄壁の防御を持っていますし、ガエルもいる中にフロンタルが侵入してくるという状況はあり得ません。結果的にはフロンタルが内部にいることから逆算して、理由づけをしていった感じです。ネオ・ジオングにはサイコミュ的な機能でメガラニカをハッキングするという要素を加えて、ガエルは異常を確認するために不在だったという感じで。作業的にも大変でシーンも増えましたけど、実際に映像を観ると直接会わせてよかったなと感じました。
☆秘話6 真ユニコーンガンダムは音にもこだわりがある?
――マシンという存在を超え、ニュータイプの可能性のひとつとして姿を現した真ユニコーンガンダム。腕の一振りで核融合エンジンすら停止させるという恐るべき存在であり、その有機的なそのディテールは、デザインという側面においてもこれまでの常識を覆すものだ。だが福井氏は、「まだ何か足りない」と感じていたという。
福井:あそこまでビジュアルを変えても、何かちょっと足らない感があったんです。そこで、「そうだ、音が足りないんだ」と気付いて、音響効果の西村睦弘さんに、キラキラ音を追加してほしいと頼んだんです。真ユニコーンガンダムが映っているときは、必ずシャンデリアのクリスタルがシャラシャラなっているような音が鳴るような感じで。それでもなかなか伝わらなくて、「ヤマトよ永遠に」の最期に水晶都市が出てくるんですが、そのときに使われているSEのイメージを欲しいって説明したんです。後で調べたら、その音はSEじゃなくて音楽だったんですけどね(笑)。まあ、それでもきわめて近い感じのキラキラ音が再現できたので、ただならぬ雰囲気が出せたのではないかと思っています。
☆秘話7 コロニーレーザーを食い止めるユニコーンガンダムとバンシィは粉々になる予定だった?
――サイコ・フィールドを展開し、コロニーレーザーを食い止めるユニコーンガンダムとバンシィ。極限の状況は、バナージとユニコーンガンダムの姿を変貌させてしまう。
福井:最初はね、コロニーレーザーを防いだところで、機体を粉々にしようよって言ってたんです。T字型のサイコフレームがバラバラって飛び散って、それが再び集まってガンダムに戻るような感じで。さすがにやりすぎということで実現はしませんでした。
※6ページに及ぶ超ロングインタビューから、制作秘話・裏話にあたる部分のみを要約しました。これは全体の1/3程度にすぎません。とても面白いインタビューなので、全文をお読みになりたい方は、ぜひ月刊ガンダムエース2014年7月号をお求めください。