第1回 2009/10/15
監督 水島精二 × メカデザイナー 海老川兼武
水島 ついに始まった、G-ROOMSの記念すべき第1回なんだけど、その題材に、なぜレグナントを選んだの?
海老川 連載の最初なので、少しキャッチーなものがいいかと思ったんです。それならばガンダムではなくて、脇のメカで何かいいものはないかな? と考えた結果、レグナントに決めました。“頭部にガンダム顔が隠されている”という裏設定もありますので、それを拾ってみようかなと思いまして。
イラストのシチュエーションとしては、戦いが終わった後に、本編の最終決戦の舞台となった戦艦ソレスタルビーイング周辺のデブリの片付けが行われていて、その際に巡回しているモビルスーツが、残骸になったレグナントを発見したという感じです。残骸は、軌道からすでに外れていて、それをモビルスーツのモニターカメラで捕捉したのを基地で分析しているワンショットと想定しています。アイデアとしては、残骸を回収した後の写真という案もあったのですが、どうせならモニターノイズがちょっと入ったような感じの方がいいかと。
水島 シチュエーションからいろいろと想像できるよね。
海老川 このぼんやりとした画像から、いろいろと想像してもらえるのがいいかなという思いはありますよね。レグナント初登場回の脚本の初稿に「ガンダム顔が出てくる」という記述があったので、決定稿があがる前に、僕が先走ってラフを描いてしまったんです。だけど、実際には劇中では使われず、“裏設定”になってしまいました。
水島 シリーズ構成の黒田(洋介)君が、脚本に書いていたんだよね。「隠されたガンダム顔」がいきなり画面に出れば視聴者は「おっ!」と驚くはずだし、ストーリー的には、ルイスは自分を苦しめているガンダムに実は乗っていた、ということは判るんだけど、その後に、劇中でその事へのフォローができない構造だった。ガンダム顔の存在にさらに何か因縁があって、ドラマでフォローできるならいいけど、一発芸になっちゃうなら、残念だけどフィルムには入れられないという話になった。
海老川 でも、『ロボット魂』の方では、しっかりとガンダム顔が再現されているんですよね。
水島 フィギュアとか模型を作る人や、ガンダムが好きな人にしてみると、そういう“裏設定”は嬉しいんじゃないのかな。
海老川 アイデアとしてはすごく面白いものですし、こんな機会なので、せっかくだから“ガンダム顔”をちゃんと形に残しておこうかと思ったのが、レグナントを選んだ大きな理由です。
水島 これでレグナントの裏設定が、本当の意味でオフィシャル化されましたよ。本編中で触れられなかったところや、デザイナーのこだわりを掘り下げていこうというのがこの連載の主旨でもあるので、いいんじゃないかな。
開発の系譜で言うと、このレグナントは、リボンズが裏から手を回して連邦をある程度コントロールできる状況において、ソレスタルビーイングの技術をもとに作られている機体なので、いわゆるガデッサに代表されるイノベイター専用機である〈ガ・シリーズ〉と同じ流れにある。つまり基本はソレスタルビーイングのモビルスーツと源流が同じだから、本来ガンダム顔があってもいい機体なんだよね。
海老川 そうですね。設定としては〈ガ・シリーズ〉の流れを汲みつつ、あと、僕は結構アルヴァトーレからの流れも意識しているんですよね。
水島 それはデザインで見ると判るよね。
海老川 アルヴァトーレからレグナントの試作機であるエンブラスに行って。最終的にレグナントに至るイメージですよね。アルヴァアロンとアルヴァトーレは、ファーストシーズンのラスボスとして大河原(邦男)さんが描かれたんですが、デザイン的な系譜から浮いてしまっていたので、せっかくだからうまく繋げられないかと思ったんです。さらに、リボーンズガンダムでは、胸の部分のクリアパーツなど、アルヴァアロンのデザインを意識して取り入れています。設定上はリボーンズガンダムの設計をもとに、リボンズがアルヴァアロンを造ったということになっているんですけどね。
水島 その辺りは、デザイナー各々が、前のデザインを大事にしてモビルスーツの流れを作るということを意識してやってくれていた現れだね。
水島 あと、エンプラスとレグナントで言えば、そもそも商品化しないだろうというところからデザインがスタートしているのが大きいよね(笑)。モビルスーツは商品化することを前提にしていたから、いろいろとデザイン的な制約があったんだけど、レグナントは制約を無視して大きいサイズでもいいということになって。エンプラスとレグナントは、「オレと海老川の夢だ!」とか言って、特に制約を考えずに自由に作っていった機体なんだよね。そういう意味では、劇中に登場した機体の中では、最も二人で揉んだんじゃないかな?
海老川 そうですね。一番監督の意見が入っているメカじゃないでしょうか。監督の要望に合わせて、こちらもいろいろとアイデアを出しあいましたよね。柳瀬さんの〈ガ・シリーズ〉が、商品化するという都合もあって、格好良くまとまっているので、その反動がレグナントには出ていると思います。
水島 だから、もっといびつなモビルスーツにしようよとか言っていた。元々は、蝶や蛾のイメージでデザインが出てきているので、レグナントのMS形態は「もっと変な形にしようぜ」という話で盛り上がった記憶がある。
海老川 最初は、ルイスが乗るということで女性のラインを取り入れたデザインで描いたせいか、意外とバランスは良かったんです。だから、変形するとスラッとしたカッコイイ系になってしまって。そこをもっと、「憎しみの塊」みたいな仰々しい感じにしようと監督から意見がありまして。エンプラスはレグナントの試作機という設定ですけど、実際にデザインを考えた順番は逆なんですよね。まずはレグナントありきで、レグナントのデザインを固めてからエンプラスのデザインに取りかかっているんです。本編のもう一人の主人公・沙慈にとってのヒロイン・ルイスが乗る巨大モビルアーマー……という構図は、ガンダムシリーズにおいては定番ではあるんですが、定番の流れの中に埋もれるのは嫌だなと思って、シルエットでは目立つ形にしたいなとは思ったんですよね。
水島 フィルムでは、レグナントはかなりおいしく使えたと思っているんだよね。
海老川 そうですね。ルイスが、自分の両親の仇であるネーナを殺すシチュエーションなんかは、一番の見せ場だったと思いますし、個人的にも大好きなシーンですね。
水島 あれは、ルイスの狂気もうまく出ていたし、ルイス役の斉藤千和さんの演技も素晴らしかった。あの辺りは女の戦い。王留美が殺されるあたりから、物語もえらい流れになって行くし。物語の密度が濃くて「これを1話だけでやるのか!」って、脚本が上がって来たときには思ったんだよ。
中盤以降は本当にかなりの密度になってしまって。ノンビリやっていたわけじゃないけど、どうしてもそれを昇華するのに、どれだけ劇的にするかというとこをかなり苦心したね。レグナントも、その中でちゃんと変形を見せつつ、爪も使いつつという感じで。デザインをしているときは、爪の使い方にしてもいろいろアイデアを出しあって楽しいんだけど、いざフィルムの尺の中でそれをやろうとすると「これとこれは同時にできないよ」となるので、「細かくカットを割って頑張るか」と。
海老川 僕、実は、コンテを見たときは、ガンダムスローネドライを握りつぶしているのかと思っていたんですよね。でも、そのままクシャって潰すのかと思ったら、爪を突き刺していましたからね。ポジション的にはおいしいところをいただきました。強かったですし。リボーンズガンダムの次くらいには高性能な機体なんじゃないですか?
水島 そうだよね、多分。そういう意味では我々二人はレグナントラブですよ。
『ガンダム00』はこんな感じで、映像化込みでデザイナーと密にやりとりができたし、かなり細かい設定も存在していて、今回のような企画をやろうと言った時にもわりと簡単にアイデアが出せるという良さがあったね。
海老川 デザイン的にも、結構自由度は高かったですよね。
水島 デザイナーとこれだけ顔を合わせて打ち合わせしている作品が珍しい。打ち合わせの際には、全員集まってやっていたからね。そういうデザイナーと監督の関係を踏まえて、この連載は、ある意味僕らが楽しむ企画でもあるんだよね。「アイツ、何を描いてくるんだろう?」って、毎回楽しみになりそう。本当に、こういうガンダム側ではない部分にもスポットを当てられる企画が展開できたことはうれしい。……で、次は柳瀬君ですが、何を描くって言ってました?
海老川 アレじゃないですか? おそらく(笑)。
水島 アレですか(爆笑)。そこまで愛があるんだ。
海老川 アレを描きたいんだけど、対談ってことでやめようかな……ということも言っていたので。実際に何を描かれるかはわかりませんが、凄く楽しみにしています。
水島 ホント、楽しみですね。彼がどんなシチュエーションで何を描いてくるのか(笑)。
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本帖最后由 P 于 2009-10-16 15:03 编辑 ]